概要
お金は物々交換の不便から生まれた、という話は史料に無い。先にあったのは借りのほうだ、という本。
この物語について
『負債論』(デヴィッド・グレーバー、2011年、日本語版2016年)は、経済学の教科書の最初のページを疑うところから始まる。物々交換が不便だから貨幣が生まれた、という話になる。そういう社会は、人類学が調べたかぎりどこにも見つからない。
実際に古いのは、帳簿のほうだった。メソポタミアの神殿は、貨幣が生まれる何千年も前から、誰が何をどれだけ借りているかを粘土板に記していた。硬貨が現れるのは、市場のためではなく、軍隊に払うためになる。兵と貨幣と奴隷制は、同じ数百年に、ギリシアでもインドでも中国でも一緒に現れた。
中世に硬貨が姿を消すと、人びとは信用で取引した。大航海と植民地とともに現金と暴力が戻り、1971年に金の裏づけが外れて、また信用の時代に入った。本はそこを「まだ始まったばかりの時代」と呼んで終わる。
本のもう一つの主題は、借金が道徳の言葉で語られることになる。返すのが当たり前だから、返せない人は悪い人になる。それが歴史のあいだ、どれだけの人を奴隷にしてきたか、という筋になる。
この物語は、本が使ったできごとを並べ直したものになる。本文は写していない。章題は番号と主題で書いた。
動画(1)
重なっているストーリー
同じできごとや人物を含む物語です。何件を共有しているかを添えました。
交易路とお金9件を共有 / 運ぶ/両替する/貸す。人と物が動くところには、いつも同じ仕組みが生えてくる。『サピエンス全史』で読む歴史8件を共有 / ハラリが人類史を三つの革命で切った本。その筋に沿って、このデータベースの項目を並べ直す。古代オリエント3件を共有 / 文字も法も都市も、まずここで生まれた。そして次々に主が入れ替わる2500年。『銃・病原菌・鉄』で読む歴史3件を共有 / なぜ征服したのがスペイン人で、されたのがインカだったのか。ダイアモンドは答えを人ではなく大陸の形に求めた。『国家はなぜ衰退するのか』で読む歴史3件を共有 / 国境をひとつ挟んで豊かさが違うのは、地理でも文化でもなく制度のせいだ、という本。2024年のノーベル経済学賞の元になった。『世界史』(マクニール)で読む歴史3件を共有 / 文明どうしが接触し、借り、競い合うことで歴史が動く。世界を一つの物語として書いた最初の教科書。『万物の黎明』で読む歴史3件を共有 / 狩猟採集から農耕へ、村から都市へ、そして国家へ。その一本道の筋書きそのものが間違いだ、という本。主権はだれのものか2件を共有 / 王が決めるのか、議会が決めるのか、国民が決めるのか。800年かけて答えが動いた。考えることの歴史2件を共有 / 同じ数百年のあいだに、ギリシアでも中国でもインドでも、人が根本から考え直した。文明のはじまり2件を共有 / 農耕も都市も文字も、離れた場所で別々に始まった。そして始まった順序は、思っているのと違う。コテンラジオで聞く歴史2件を共有 / ポッドキャスト「コテンラジオ」が取り上げた人物とできごと。ここに並ぶ項目には、その回の動画が付いている。『物質文明・経済・資本主義』で読む三つの層2件を共有 / 毎日の暮らし、市場での取引、そしてその上に乗る資本主義。ブローデルは経済を三層に分けた。『大分岐』で読む歴史2件を共有 / 1800年まで、長江下流とイングランドは同じくらい豊かだった。分かれたのは石炭と植民地のせいだ、という本。『繁栄』で読む歴史2件を共有 / 人類が豊かになったのは交換のおかげで、悲観する理由はいつも外れてきた、という本。反論側も付けてある。『1491』『1493』で読む新大陸2件を共有 / コロンブス以前のアメリカは人の少ない原野ではなかった。以後の世界は、生き物の大移動でできている。『反穀物の人類史』で読む歴史2件を共有 / 人が穀物を育てたのではなく、穀物と国家が人を囲い込んだ。最初の国家は、なぜ壁の内側に人を閉じ込めたのか。『近代世界システム』で読む歴史2件を共有 / 国ごとの発展を比べるのをやめる。16世紀からずっと、世界は一つの分業の仕組みとして動いてきた、という本。『収奪された大地』で読むラテンアメリカ2件を共有 / 500年の歴史を、何が持ち去られたかで書く。金、銀、砂糖、ゴム、コーヒー、銅、石油。中華の統一1件を共有 / 殷を倒した周から、初めて中国をひとつにした秦まで。800年かけて「天下」という考えが育つ。大航海時代1件を共有 / 海が壁ではなく道になった。二つの大陸が結ばれ、世界がひとつの市場になっていく。インドと仏教1件を共有 / 一人の王子が始めた問いが、アショーカ王に拾われ、玄奘に運ばれ、東アジアへ届くまで。中国の王朝1件を共有 / 殷から清まで3000年。王朝は替わっても、同じ型で替わり続けた。技術と産業1件を共有 / 道具が人を変え、その人がまた道具を作った。速さが加速していく話。冷戦のあと1件を共有 / 対立の構図が消えたあと、何が残ったのか。1989年からの三十年。誰が書き残したか1件を共有 / 残っているものが全部ではない。誰の筆によるかで、同じ出来事が違って見える。『暴力の人類史』で読む歴史1件を共有 / 人が人を殺す率は、狩猟採集の時代から今まで、長い目で見ればずっと下がってきた、という本。反論も多い。『ヨーロッパ覇権以前』で読む13世紀1件を共有 / 1250年から1350年まで、世界はすでに一つにつながっていた。ただし中心はヨーロッパではなかった。『地中海』で読む歴史1件を共有 / 歴史には三つの速さがある。ほとんど動かない時間、ゆっくり動く時間、そして事件。捕虜収容所で書かれた本。『大転換』で読む歴史1件を共有 / 市場はずっと社会の一部だった。それが逆転して、社会のほうが市場に合わせはじめた19世紀に何が起きたか。『地に呪われたる者』で読む脱植民地1件を共有 / 植民地支配が人の心に何をするかを、精神科医が診察室から書いた。36歳で死ぬ年に口述された本。『暴力と不平等の人類史』で読む格差1件を共有 / 格差を大きく縮めたのは、改革ではなく破局だった。戦争、革命、国家の崩壊、疫病の四つしかない、という本。『砂糖の世界史』で読む世界商品1件を共有 / 一つの白い粒を追いかけると、カリブの奴隷とイギリスの朝食と産業革命が一本につながる。『昨日までの世界』で読む伝統社会1件を共有 / 国家のない社会は、争いも子育ても老いも、私たちと違うやり方で扱ってきた。何を学べるか。『交易の世界史』で読む物の流れ1件を共有 / シュメールの銅から現代のコンテナまで。人が物を遠くへ運ぶために、何をしてきたか。『リオリエント』で読む世界経済1件を共有 / 1800年まで、世界経済の中心はアジアだった。ヨーロッパは、その列に遅れて並んだ客にすぎない。『黒い皮膚・白い仮面』で読む植民地の心1件を共有 / 支配される側が、支配する側の目で自分を見てしまう。27歳の精神科医が書いた最初の本。『史記』で読む中国1件を共有 / 2000年前に、一人の男が3000年ぶんを書いた。宮刑を受けてなお書き続け、以後の中国の歴史書の型になった。筋(17)
年代順に並べてあります。役どころが書いてあるものは、なぜこの物語に含まれるかを添えました。
楔形文字の成立できごと / 紀元前32世紀 / 最初に書かれたのは借りの記録だったメソポタミアの徳政令できごと / BC24〜18世紀(王の代替わりごとに繰り返された) / 徳政令は例外ではなく、繰り返される制度だったハンムラビ人物 / BC1810年頃 – BC1750年頃ハンムラビ法典できごと / BC1754年頃 / 法典の条文の多くが、借金と質入れを扱っているソロン人物 / BC630年頃 – BC560年頃リュディアの鋳造貨幣できごと / BC7世紀後半 / 硬貨は市場ではなく、兵に払うために生まれたソロンの改革できごと / BC594年 / 借金の帳消しから民主政が始まった釈迦の悟りできごと / BC528年頃(年代に諸説あり) / 同じ数百年に、負債を否定する思想も生まれた秦の中国統一できごと / BC221年 / 貨幣と軍隊と官僚が同時に現れるシャンパーニュの大市できごと / 1150年 / 中世は現金ではなく信用で回っていた大西洋奴隷貿易できごと / 1526年 / 借金は人を売る理由として使われてきたポトシ銀山の開発できごと / AD1545年 / 現金と暴力が戻ってくるイングランド銀行の設立できごと / AD1694年 / 国の借金が、そのまま通貨になったミシシッピ会社のバブルできごと / 1719年デヴィッド・グレーバー人物 / AD1961年2月12日 – AD2020年9月2日 / 著者金とドルの交換停止できごと / AD1971年8月15日 / 第12章。金の裏づけが外れ、また信用の時代に入る世界金融危機できごと / AD2008年 / 本が書かれた直接のきっかけ